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岡山地方裁判所 昭和25年(ワ)533号 判決

原告 三枝利泰 外八名

被告 三井造船株式会社

主文

被告が原告三好同苅田同池田同田添に対し昭和二十四年十二月十六日にした懲戒解雇はいずれも無効であることを確認する。

原告三枝同山本同尾高同中藤同宮崎の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを十分しその五を原告三枝同山本同尾高同中藤同宮崎の平等負担としその余を被告の負担とする。

事実

第一、原告等全員訴訟代理人の陳述。

一、請求の趣旨並に請求原因。

被告が原告三枝同山本同尾高同中藤同三好同苅田同池田同田添の八名に対し昭和二十四年十二月十六日にした懲戒解雇並に原告宮崎に対し同月二十四日にした懲戒解雇はいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求める。

請求の原因として被告は玉野市玉に在る玉野製作所において、船舶及び舶用諸機関の新造並に修理等の事業を営む株式会社である。つぎに原告等はいずれも被告に雇われ、右玉野製作所において叙上被告の事業のため働いていた従業員であり、かつ全国造船労働者をもつて組織せられている全日本造船労働組合の組合員中被告に雇われている者をもつて組織せられている全日本造船労働組合玉野分会(分会と略称する。)の組合員であつた。しかるに被告は被告の就業規則を適用し原告等にその反則があるという理由で、原告三枝同山本同尾高同中藤同三好同苅田同池田同田添の八名を昭和二十四年十二月十六日に、原告宮崎を同月二十四日に、それぞれ懲戒解雇した。しかしながら右懲戒解雇はいずれも違法無効の処分であるから請求趣旨どおりの判決を求める。

二、懲戒解雇の正当事由に対する答弁。

被告の旧就業規則並に改正就業規則に被告主張のような懲戒に関する規定の存在することは認める。原告等に被告主張のような就業規則違反の所為があるか否かについての答弁はつぎのとおりである。

(一)  原告三枝同山本の分。

(イ)の事実中、昭和二十四年十一月二十八日、終業後外業組立職場において、職場組合員による職場会議が開催され、原告三枝がその議長となつたこと、右職場会議において原告山本が提出した「翌二十九日のエルゼメルスク号の海上予行運転を拒否するように中闘に圧力をかける。」との動議を取上げ、これを可決せしめたことは認めるが、その余の事実は否認する。

右職場会議については、十一月二十八日当時は被告と分会とは争議状態に在つたのであるから、同職場の職場組合員が当日闘争支部としてその職場会議を開催し、闘争に関する一切について論議し、殊に下部機関として中闘の闘争方針を批判し或はこれを激励し或はこれに対して圧力を加えたりすることは当然許容さるべきことがらである。被告のように六千人以上の従業員を擁し、七十以上の職場に分れているところでは、分会も各職場の闘争支部に分れざるを得ないのであつて、この闘争支部が闘争の単位となり、その役員が中闘の許可範囲内において機宜の措置を採らなければ、中闘委員十八名で一々闘争を指揮し得るものではない。

なお右職場会議は終業後三十分位に亘つて開催されたに過ぎない。職場組合員が作業時間終了後三十分以内その職場に残留することは、従来慣行として被告が許容していたものであるし、殊に争議中において終業後三十分以内に行われた右職場会議の開催について、被告の許可を必要とする理由はない。

(ロ)の事実中、同月二十九日中闘がエルゼメルクス号の海上予行運転拒否の中闘指令第三十六号を発令したこと、当日その発令後松尾外業課長が外業組立職場に来場し、右指令に対する運転要員の去就を確認するため、職場組合員を集合させたこと、中闘が青井井上両中闘委員を現場に派し事態の拾収を図つたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。右職場会議については、当日早朝中闘から「本二十九日一日間会社より五四六番船の海上予行運転要員に指名された組合員は、乗船を拒否すべし、爾後に関してはその都度中闘が指示する。」との中闘指令第三十六号が発令されたので、職場組合員としては当然この指令に従うの外はなかつた。これを知つた担当の松尾外業課長は、外業組立職場の職場組合員全員を外業事務所前に集合させ、運転要員四十名余につき、右予行運転のため乗船を拒否するか否かをその一人一人の氏名を呼上げて確めたのであるが、その際同課長は特に運転に無関係の役に立たない原告三枝同苅田の両名をもその運転要員に指名した。この指名は原告三枝が同職場の闘争支部長、同苅田が拡闘委員であつていずれも闘争中分会の重要な地位に在つたので、これを職場から離脱させ、組合員を切崩そうとの企であることが何人にも容易に窮われるところであつたので、職場組合員等は激昂して松尾課長にその理由の釈明を求め、かつその撤回を要求した。同課長は「この指名は策戦である。自分個人の考えで出した業務命令である。」等告白したが、組合員等はこれを非難し、事務所の前を立去らないので、原告等は寧ろ宥めていた位である。かくするうち、このことは中闘に聞え、午前十時頃中闘委員が自ら鎮撫に来たが、騷ぎはそれでもなかなか治らなかつた。中闘は原告三枝同苅田の両名に一応その場に残留することを命じ、協議の上午前十一時になつて青井井上両中闘委員を現場に派したので、職場組合員等はその指示を受けるため職場に集合したのであるが、両中闘委員から極力宥められ、かつ業務に就くようにとの諭示を受けて漸く業務に就いたのである。以上の経過に鑑みるとき、原告三枝同苅田が職場会議を開催したといえるであろうか、それは職場会議とはいい得ないし、また原告等が招集したものでもない。松尾外業課長が外業事務所前に運転要員四十名余を含む職場組合員全員を集合させたのが騷ぎの発端である。

つぎに被告は原告山本が右職場会議の解散を命じた小泉造機部長代理に対し、罵詈雑言をあびせて反抗し、原告三枝とともに会議の続行を図つたというが、この小泉造機部長代理なるものは元来設計課長で、その所属職場が外業組立職場から相当離れているので、外業組立職場の組合員には誰れであるのか分らず、誰れであるのか知れない男が来て、組合員に対し横柄なものを言うので、組合員が一勢に憤慨し、「お前は何だ出て行け。」と言つて同代理を無視する態度に出たところ、松尾外業課長が「おいこの方は小泉造機部長代理だぞ。」と言つて組合員を矯めたため、一同が始めてそのことを知り、同代理の顏を見直したという滑稽な経緯があつたに過ぎない。

(ハ)については被告主張のような事実はない。

(2) 原告尾高同中藤同三好の分。

(イ)の事実中、昭和二十四年十一月二十九日、造船仕上職場において、職場組合員による職場会議が開催され、原告尾高がその議長となつたこと、右職場会議終了後、同職場に、木庭職場長ついで河面係長が来場したことはいずれも認めるがその余の事実は否認する。

右職場会議は作業開始前の午前八時から八時十分までの就業時間外において行つたに過ぎない。また該職場会議は当日早朝発せられた中闘指令第三十六号を職場組合員に伝達するために開催し、職場闘争支部長たる原告尾高がその議長となつてこれを伝達したものである。かような指令は掲示板に掲げた文章だけでは事実上全組合員に徹底しないし、その解釈や実施上にも色々疑問があるので、職場闘争支部長としてはこれを直接職場組合員に説明する必要がある。しかるにその際一組合員から提出された「乗船拒否者に対しては被告から退場等の業務命令が出るであろうから、その場合には職制に対しその業務命令の取消を要求すべきである。」との動議が満場一致で可決され、ついで中闘指令第三十七号の「中闘は中闘自ら被告と交渉すべく、各職場闘争支部は各職場で職制と交渉せよ。」との指令が発せられた。従つて原告等職場組合員としては、右中闘の両指令並に職場会議の決定に従うべく義務づけられたわけである。間もなく当日午前八時十五分木庭職場長が右造船仕上職場に来場して、業務命令を伝える旨を宣し十二名の運転要員の氏名を告げた。そこで原告尾高は右職場会議の決定を同職場長に伝えその善処を求めたのであるが、その成行に興味をもつた職場委員等はこれが周囲を取囲んでしまいそこへ河面係長が来場した。この両職制は職制ではあるが一面組合員でもあるので、職場組合員の決定には従わねばならず、そこで河面係長は渋々右職場会議の決定に従つてこれが交渉のため課長の許に赴いたのである。従つて被告のいうような職場会議等はなく、原告尾高が職場会議の決定に基いて右両職制と交渉している場があるに過ぎない。尤も右両職制は周囲に立つている職場組合員に対し作業に就くよう注意してはいたが、時は闘争の波高まり組合員の神経緊張し、被告に対する戦闘意識の漲つているときであつたのでそのような注意を聴入れるものではない。一方隣接の外業組立職場においては、叙上のように松尾課長の作戦が意外の波瀾を呼び、それが造船仕上職場に波及し、組合員等は自ら騷然たる気分になつていた。従つて職場組合員等が業務に就かなかつたのは、全く自然発生的な彼等の自発的行動であつて、原告等の指導乃至煽動によるものではなかつた。また以上の交渉で河面係長が課長の許に交渉に赴くと、組合員等は就業したが、課長が交渉に応じられない旨報告せられると、怒つてしまつて業務に就かないので、原告等はこれを中闘に報告しその指示を乞うたのである。その結果中闘は外業組立職場に対すると同様青井井上両中闘委員を現場に派して、職場組合員を宥めかつ業務に就くよう諭示せしめた。被告はこのことを原告等が午前十一時から正午まで職場会議を開催したと主張するけれども、これは両中闘委員が組合員を集めて説得する場であり、中闘の集会であつて原告等の指導すべき何ものでもなかつた。

(ロ)については被告主張のような事実はない。

(3) 原告宮崎の分

(イ)の事実中、昭和二十四年十一月二十九日、造船仕上職場において、職場組合員による職場会議の開催されたこと、原告宮崎がその席上で組長に対して運転要員の指名の取消を求め、組長をしてその取消を言明させたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

右職場会議の前後の事情経過は叙上(2)の(イ)について述べたのと同様である。唯原告宮崎としては、その際同職場の闘争支部長たる原告尾高が、木庭職場長に対し、職場会議の決定を伝えて善処を求め交渉中、同職場長に対し「業務命令は所長が出すのである。この運転要員の指名を課長が出したのなら、取消して貰いたい、」との発言をしたに過ぎない。同職場長は直ちにこれに応じ、右業務命令を取消す旨言明したが、原告宮崎のなした右発言は同職場闘争支部の統制班員であつた同原告としては、叙上の両中闘指令並に職場会議の決定に従つた所為であつて何等咎められることがらではない。

(ロ)の事実中、昭和二十四年十二月十五日、原告宮崎が造船仕上職場において、職場組合員による職場会議を開催したことは認めるがその余の事実は否認する。

右職場会議は、当時同職場の闘争支部長であつた原告宮崎が、伊丹拡闘委員と相談して、作業開始前の午前八時から開催したのである。開催の理由は、当日午前十一時から分会の最高機関たる全体会議が開かれ、民同派の提唱する新提案と中闘不信任についての全体投票が行われることになつていたので、闘争支部長たる原告宮崎としては、職場組合員に対し、これを報告し説明するの必要に迫られたためであつた。しかるにこの報告と説明は十分間では済まないで就業時間に十分喰込み、午前八時二十分をもつて終了した。職場闘争支部は争議に際し闘争の基本的な単位である。従つて叙上のように組合最高の意思が決定せられようとしているときに際し、闘争支部長の地位に在つた原告宮崎が、その職場組合員に対してその目標と決定のもたらすものとを詳細に亘つて報告し説明することは、その職責上当然のことであつて何ら咎められることがらではない。

(4) 原告苅田の分。

(イ)については被告主張のような事実はない。唯原告苅田としては、十一月二十日午前九時頃、中闘の神羽闘争副委員長が労働安全衛生規則違反の調査に外業組立職場に来場した際同副委員長から、電車運転手は誰かと問われ、同職場の道上組長田村伍長の許可を受けて、右副委員長を約十米隔つたところにある電車のところまで案内したに過ぎない。

(ロ)についても被告主張のような事実はない。恐らく被告の捏造に係るものと思料する。

(ハ)についても被告主張のような事実はない。尤も当日原告苅田は、中闘委員藤本肇から、職場安全衛生規則違反調査のため、有馬山丸船内の案内を命ぜられ、同職場の道上組長田村伍長の許可を受け、かつ斎藤伍長の同行をも得て、その案内をした事実はある。しかもその船内一巡の時間は凡そ二十分で、原告苅田としてはその間黙々として右藤本中闘委員に附添い案内したに過ぎない。

(ニ)についても被告主張のような事実はない。尤も外業組立職場には六つの組があり、各組から拡闘委員が選出されているが、この拡闘委員等は、当日終業後同職場で職場会議を開催することを申合せていて、その旨を各自の所属する組の職場組合員に伝達していた。原告苅田は道上組所属の拡闘委員であるから、右申合せに従い、同組の職場組合員に対し、単に右職場会議開催の旨を伝達したに過ぎない。

(5) 原告池田同田添の分。

(イ)の事実中、原告池田が曽て日本共産党玉野造船細胞機関紙マストの発行人であつたこと、昭和二十四年十一月十五日附第二十三号の同紙上に被告主張のような記事が掲載されたことは認めるがその余の事実は否認する。

当時原告池田としては、マストの編集発行は事実上他の者に任せていて、単に名儀上のみ編集人となつていたに過ぎない。原告田添としては全く関知しない事実である。仮に右マストの編集発行乃至頒布が同原告等の所為であつたとしても被告の指摘する文章は右マストの記事中の一節に過ぎない。これを含めたその全文は、分会所属の組合員に対し、闘争に勝つために団結し、勝利獲得まで頑張るべきことを訴え、その志気を鼓舞したものであることはその行文によつても明らかである。殊に当時分会が採つた安全衛生遵法闘争は、被告の工場施設に夥しい違反箇所があつたことに鑑み、その欠陥を衝く闘争手段で、最も効果的なものであつたのであるから、これを組合員に訴え、その採用を求めようとの意図の下に分会のため争議行為としてなした組合活動である。

(ロ)の事実中被告主張のビラに、被告主張のような記事が掲載されていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告池田同田添としては、被告主張のビラについては何等関知しなかつたことである。本件懲戒解雇が原告等に通告せられた後調査したところによると、該ビラは当時闘争を応援していた日本共産党の党員半田一郎の作成に係るものであることが判明した。仮に被告主張のように、右ビラの頒布が原告等の所為であつたとしても、被告の指摘する文章は争議中何処の組合でも使用する程度のものであつて、同原告等が分会のため争議行為としてなした組合活動である。仮に右所為に玉野造船細胞に属する同原告等の政治活動たる一面があるとしても他面においては分会のため同原告等が争議行為としてなした組合活動たる性質をも具有するものである。

三、原告池田同田添の抗弁

被告が原告池田同田添に対し懲戒解雇の正当事由の項で主張する(5)の(イ)(ロ)の事実は、それ自体日本共産党玉野造船細胞に属する同原告等の政治活動を理由とするものであるから、同原告等に対する本件懲戒解雇はその政治的信条の故をもつて、その労働条件について不利益な取扱いをなすものであつて、強行法たる労働基準法第三条の規定に違反しいずれも無効である。

四、原告等全員の抗弁。

(一)  不当労働行為の抗弁。

(1) 争議の事情経過。

分会の前身たる全日本造船労働組合玉野支部は、昭和二十四年五月十七日、被告に対し当時の賃金八千円ベースを一万二千円ベースに賃上要求をした。(同支部は翌六月その名称を叙上の分会に変更した。)この賃上要求について、分会と被告とは旧労働協約(同年十月二十九日失効、)により同年六月二十三日から同年八月二十二日まで三回に亘り経営協議会を開いて交渉したが、意見の一致を見なかつた。その後分会は被告と同月二十二日から同年十二月二日まで二十三回に亘つて右賃上要求について団体交渉を行つたが、被告は会社の経理能力が許さないという理由でこれを拒否し、交渉は一歩も前進しなかつた。この間分会は同年八月二十三日に至り、分会規約を闘争規約に切換え通用して闘争態勢を確立し、同年九月二十一日から従来被告との間に締結されていた残業協定の締結を保留し、さらに同年十月一日被告に対し賃上要求の問題を労働委員会の調停に付すべき旨提案したが、被告は当時懸案となつていた労働協約の締結をも含めて一切の紛争を調停に付すべきこと及び調停申立前先づもつて残業協定を締結すべきことを主張して譲らなかつたので、労働委員会の調停も実現するに至らず、分会は同年十月三十一日闘争宣言を発するに至つた。かくて分会は争議に突入し、翌十一月十八日ストを含む実力行使が分会の全体会議で可決され、翌十九日より各職場において労働安全衛生規則の遵法闘争を開始し、さらに同月二十九日よりエルゼメルスク号の海上予行運転の拒否等各職場の要点に対し部分ストを実施した。被告はその対抗手段としてエルゼメルスク号の予行運転拒否等作業拒否者に対し臨時休業を命ずるとともに、関連職場に対しても工場閉鎖を行つた。被告は同年十二月三日の第三十四回団体交渉を最後として、その後はあらゆる口実の下に分会が連日に亘つて申入れた団体交渉を拒否するとともに、同月六、八、十一、十二日の四日間臨時休業を行つて分会の分裂を図つた。元来分会の執行部(闘争中は中央闘争委員会と称し、略して中闘と称する。)には神前史郎等七名の民同系指導者が居り、これと共産系及び革同系の指導者との間には多くの場合意見が対立した。この民同派指導者のグループは予て労働問題研究会を結成して叙上分会の闘争方針に反対していた。その主張は要するに闘争態勢を解き、残業協定を結び、越年資金を獲得せよというのであつて被告の好むところであつた。この民同派の宣伝と策動とは、被告が職制を通じてした組合員の切崩しと相俟つて、次第にその効果を現し、同月中旬頃には分会の全体会議につぐ決議機関たる拡大闘争委員会(略して拡闘と称する。)の大勢を支配し、同月十三日の拡闘は民同派掲案の中闘委員不信任案を可決するに至つた。しかるに右拡闘の不信任決定は、意外にも同月十五日開催された分会の全体会議において否決され、中闘委員の信任と既定方針による闘争の継続が決定された。これよりさき被告は同月三日旧就業規則を改正し第九十一条の「表彰及び懲戒は賞罰委員会の議を経て社長がこれを行う。賞罰委員会に関する規定は別に定める。」との規定を削除していたのであるが右事態の急転を見た被告は同月十六日分会の組合員中強硬分子として目されていた原告宮崎を除く爾余の原告等八名の指導者を右改正後の就業規則により懲戒解雇した。当時民同派グループは或る職場では係長の座せる机の傍に署名簿を置き、そこに民同派の指導者が立ち一人一人の組合員を呼寄せ、分会を脱退して同派の提唱する民主的な組合(第二組合と略称する。)に加入することを慫慂して署名を求め、或る職場では、分会脱退か第二組合加入かについて記名投票を行つた。しかも当時分会に対しては平素人の自由に通行し児童の遊戯するグランドの使用すら禁じた被告が第二組合結成のため奔走する従業員には作業時間中にすら署名運動や記名投票を許した。同月二十日被告の社長はラジオをもつて第二組合えの加入を慫慂するような言辞を放送し、その他重役職制を通じ第二組合に入らなければ馘首されるとか、越年資金を貰えぬとかの発言をさせて分会の分裂を図つた。かくて分会所属の組合員は滔滔として第二組合に走つた。同月二十一日第二組合は三千六百名の加入者を得たとして結成大会を開催した。集る者千二百名ここに民主的組合と讃えられる新な三井造船労働組合が成立し、かくて分会は事の既に了れるを知り、同日一切の闘争指令を解く旨指令して闘争態勢を解除した。

(2) 不当労働行為。

叙上の争議において被告等が所属していた職場と分会の組合員としての役割は別表に示すとおりである。その間原告等は叙上二の懲戒解雇の正当事由に対する答弁の項で述べたように争議行為たる組合活動をしたのであるがこれ等はいずれも中闘の許容した正当な組合活動であること勿論である。しかるに被告は分会を弱体化し第二組合を結成せしめようとの意図の下に叙上(1)の争議の事情経過の項で述べたように分会の運営に対する諸種の介入をしたばかりでなくその他にも第二組合の組合員に対しては被告自ら不当な争議行為を指導推進し、被告に甚大な損害を与えたとしながら、短期間の出勤停止等軽い懲戒処分に止め、または窃盜犯人でも情状を酌量して解雇しなかつたのに、分会の組合員に対してはその軽微な就業規則違反の所為を捉えてこれを解雇する等苛酷な懲戒処分を行つた。そして同年末までには原告等を含む分会の指導者合計三十四名の全員を解雇したのに、第二組合に入つた組合員は唯の一人も解雇しなかつた。争議中分会に対しては八千円ベースを一銭たりとも上げ得ないとした被告がその終了後間もなく第二組合との間に実質上九千円ベース以上の給与体系をもつて協定を締結する等分会と第二組合との各組合員間に著しい差別待遇を行つた。叙上諸般の事実で推認できるように、原告等に対する本件懲戒解雇は、被告が分会の弱体化を企図してなしたその運営についての介入乃至同原告等が分会の正当な組合活動をしたことの故をもつてなした就業規則違反に藉口する不利益な取扱いであつて、いずれも不当労働行為として無効である。

(二)  改正無効の就業規則を適用したとの抗弁。

被告の旧就業規則第九十四条によると「この規則を改正する必要を生じた場合は、労働組合との協議によつて行う。」と定められていたのに、被告は昭和二十四年十二月三日、該規定を無視し分会との協議を経ないでこれが改正を行い、同規則第九十一条の「表彰及び懲戒は賞罰委員会の議を経て社長これを行う、賞罰委員会に関する規定は別に定める。」との規定を削除した。しかしながら右改正による同条の削除は、同規則第九十四条に定める分会との協議を経ないで行われたものであるから同条の規定に違反し無効というべきところ、被告が原告等に対してなした本件懲戒解雇は、被告がかかる無効の就業規則により、同規則第九十一条の定める賞罰委員会の議を経ないでなされたものであるから、いずれも無効である。

(三)  効力停止中の就業規則を適用したとの抗弁。

就業規則は平和時に妥当する規則で、争議中は自ら変容修正せられ、組合活動に対してはその効力が停止されるものと解する。しかるに原告等に対する本件懲戒解雇は、同原告等の叙上争議中の組合活動に対し、かかる効力停止中の就業規則を適用してなした不当な解雇であるからいずれも無効である。

(四)  就業規則中の情状酌量規定を適用しなかつたとの抗弁。

仮に原告等の所為が被告主張のように、就業規則に照らし違法であるとしても、それは争議中已むなくなされた軽微な違反行為であるのに、被告がこれを理由に原告等に対し懲戒解雇という苛酷な処分をしたのは、就業規則の情状酌量規定を無視し、その正当な適用をなさなかつたものとしていずれも無効である。

第二、被告訴訟代理人の陳述。

一、請求の趣旨並に請求原因に対する答弁。

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求める。請求原因事実中被告が玉野市玉に在る玉野製作所において、船舶及び舶用諸機関の新造並に修理等の事業を営む株式会社であり、原告等がいずれも被告に雇われ、右玉野製作所において、叙上被告の事業のため働いていた従業員であり、かつ全国造船労働者をもつて組織せられている全日本造船労働組合の組合員中被告に雇われている者をもつて組織せられている全日本造船労働組合玉野分会(分会と略称する。)の組合員であつたこと。被告が被告の就業規則を適用し、原告等にその反則があるという理由で、原告三枝同山本同尾高同中藤同三好同苅田同池田同田添の八名を昭和二十四年十二月十六日に、原告宮崎を同月二十四日にそれぞれ懲戒解雇したことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

二、懲戒解雇の正当事由

被告の就業規則の懲戒規定中本件懲戒解雇に関係ある旧就業規則(昭和二十四年三月一日から施行の分。)には、

第八十九条 次の各号の一に該当する者は、審議の上譴責、減給又は職分剥奪に処する。但し犯則が軽微であるか、又は改悛の情が顕著な者は訓戒に止め、情状の重い者は懲戒解雇することがある。

尚本条に該当する犯則により会社に損害を与えたときは賠償の責を負わせることがある。

一、会社の諸規則、公示、通達等に違背し、又は上長、係員の正当の指令に服せず、若くは粗暴の行為があつた者。

七、許可を得ないで、終業後正当の理由なく妄に工場内に止る者。

十三、上長の指図を待たないで妄に仕事をなし、又は越権専断の所為があつた者。

二十六、正当の理由なく故意に業務を渋滞させる行為があつた者。

三十、その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があつた者。

第九十条 次の各号の一に該当する者は審議の上懲戒解雇する。但し情状により職分剥奪又は減給に止めることがある。

尚本条に該当する犯則により会社に損害を与えたときは、賠償の責を負わせることがある。

五、業務の秘密を漏洩し、又は故意に会社の不利益を図つた者。

二十一、前条又は前各号に該当する犯則によつて会社に重大な損害を醸した者。

二十二、その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があつた者。

と規定せられ、

つぎに改正就業規則(昭和二十四年十二月三日から施行の分)には、

第八十九条 左の各号の一に該当する者は情状により譴責、減給、出勤停止又は職分剥奪に処する。

但し犯則が軽微であるか、又は改悛の情が顕著なる者は訓戒に止めることがある。

一、会社の諸規則、通達等に違背し、又は上長の業務上の指令に服しない者。

十六、正当な理由がなく故意に業務を渋滞させる行為のあつた者。

二十一、その他前各号に準ずる行為のあつた者。

第九十条 左の各号の一に該当する者は懲戒解雇に処する。

但し情状により職分剥奪、出勤停止又は減給に止めることがある。

四、業務上の秘密を漏洩し、又は故意に会社の不利益を図つた者。

九、会社内の秩序を乱し、又は同僚を煽動して業務の遂行を妨害した者。

十五、その他前各号に準ずる行為のあつた者。

と規定せられているが、原告等に対する本件懲戒解雇は後述のように従業員たる原告等に右旧就業規則または改正就業規則の懲戒規定によつて懲戒せらるべき所為があつたので、これを適用してなした正当な懲戒処分であつて、これを原告等各自について具体的に述べるとつぎのとおりである。

(1)  原告三枝同山本の分。

(イ)昭和二十四年十一月二十八日、原告三枝同山本は原告苅田と共謀の上、終業後妄に叙上玉野製作所の外業組立職場に止り、かつ同所において職場組合員を招集して職場会議を開催したのであるが、原告三枝は自ら議長となりこれが推進に努めた。原告山本はその間終始激越な発言をして会議の推進に努め、就中会議の中途において「翌二十九日のエルゼメルスク号の海上予行運転を拒否するよう中闘に圧力をかける。」という動議を提出して煽動的言辞を弄し、原告三枝は右動議を取上げこれを可決せしめた。しかして原告三枝同山本は直ちに右職場組合員を引率して中闘本部に赴き、中闘委員会に対し、翌二十九日実施予定の外国船エルゼメルスク号(第五四六番船)の海上予行運転を中闘指令により拒否するよう圧力を加える等被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつた(旧就業規則第八十九条第七号第二十六号第九十条第五号該当。)

(ロ)よつて同月二十九日、中闘委員会は右エルゼメルスク号の海上予行運転拒否の中闘指令第三十六号を発令したのであるが、当日その発令後松尾外業課長が右外業組立職場に来場し、右指令に対する運転要員の去就を確認するため、職場組合員全員を集合せしめたのを奇貨とし、松尾課長並に小口係長の「乗船拒否者以外の者は直ちに作業に就け。」という指令にも拘らず、原告三枝は同職場において職場組合員に対し、その場に踏み止るよう煽動指示して就業時間中の不当な職場会議を開催するや、原告山本は直ちにこれに呼応して右会議の推進に努め、さらに小泉造機部長代理が同職場に来場し、会社の許可しない会議であるから解散し就業するよう指示したのに対しても、原告三枝は故意にこれを黙殺し、原告山本は罵詈雑言をあびせて反抗し、共に右会議の続行を図り、また原告三枝は右職場組合員を率いて外業課事務室に入り、松尾課長に対して運転要員指名者を他の業務に就かせるよう強要し、同課長がこれを拒否するや、またも同職場組合員を率い運転要員以外の者の態度を決めると称し、職場会議を続行し、原告山本は終始これに協力同調した。かくして終に中闘委員会により青井井上両中闘委員を現場に派し、事態の拾収を図るまで前後三時間位に亘つて不当な職場会議を指導推進し、その間叙上職場組合員全員にその職場を抛棄させる等被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつた。(旧就業規則第八十九条第二十六号第九十条第五号該当。)

(ハ)叙上原告三枝同山本の(イ)の所為は中闘委員会をして中闘指令第三十六号を発令せしめることとなり、このため被告はエルゼメルスク号の海上予行運転を中止するの止むなきに至り、工程上多大の支障を来し、かつ同指令の発令を契機として各職場に不当な職場会議の誘発による職場の混乱を生ぜしめたのであるが、その結果叙上同原告等の(ロ)の所為と相俟つて、被告の業務を著しく渋滞させるとともに対外信用の失墜をも招来させて被告に有形無形の重大な損害を与えた。(旧就業規則第九十条第二十一号該当。)

(2)  原告尾高同中藤同三好の分。

(イ)昭和二十四年十一月二十九日、中闘指令第三十六号の発令されるや、原告尾高同中藤同三好は共謀の上、当日の就業時間中、玉野製作所の造船仕上職場において、職場組合員全員を招集して職場会議を開催したのであるが、原告尾高は同会議において議長となり、議決に先ち「運転要員に退場命令が出たら全員で行動を共にしようではないか、目下外業組立職場でもそのような態度を決めているから、吾々も是非決めようではないか。」と強制的な発言を行い。これを職場組合員に押しつけ、また原告尾高同中藤同三好は「中闘に委せていては手ぬるい、断乎やろう。」等と大声で職場組合員を煽動し、会議の激化遷延を図つた。さらに木庭職場長が「運転要員の十二名は直ちに乗船し、他の者は平常どおり作業に就いて貰いたい。運転要員が乗船しない場合は賃金は支払わない。」旨職制としての指示を申渡したのに対し、原告尾高同中藤は「職場長も組合員ではないか、十二名の運転要員を他の作業に振替えて貰いたい。」と一職場長の権限ではどうにもならないことを熟知しながら、威嚇的にかつ強硬に申入れ、故意に会議の遷延を図り、ついで河面係長が「直ちに会議を中止して作業に就くよう。」命じたが、原告尾高同中藤同三好は「吾々は課長、部長、所長のところへ押しかけて行くから、職場長係長は先頭に立つて行つてくれ。」と全く嫌がらせとしか考えられない言辞を弄してことさら会議の遷延を図つた。かくして原告尾高同中藤同三好は中闘委員会から青井井上両中闘委員を派して事態の拾収を図るまで、前後四時間位に亘つて不当な職場会議を指導推進し、その間職場組合員全員に職場を抛棄させる等被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつた。(旧就業規則第八十九条第二十六号第九十条第五号該当。)

(ロ)叙上中闘指令第三十六号の目途とするところは、二十九日のエルゼメルスク号の海上予行運転を拒否するにあるのであるから、該指令に忠実な職場組合員としては運転要員以外の者は平常どおり作業に就くべきものであるのに、原告尾高同中藤同三好は故意にかかる指令の範囲を逸脱して叙上(イ)のように不当な職場会議を指導推進して職場組合員全員に職場を抛棄させ、よつて叙上のように被告の業務を著しく渋滞させるとともに対外信用の失墜をも招来させて被告に有形無形の重大な損害を与えた。(旧就業規則第九十条第二十一号該当。)

(3)  原告宮崎の分。

(イ)昭和二十四年十一月二十九日の就業時間中、玉野製作所の造船仕上職場において、原告尾高同中藤同三好の指導により叙上不当な職場会議が開催された際その職場組合員であつた原告宮崎は右原告等三名に同調して係長職場長に対し種々暴言を吐いて会議の推進に努める等粗暴な行為があり、就中その席上で組長に対し「運転要員の指名を取消せ。」と迫つて業務命令の取消を強要し、職制であり一面組合員であるという弱い立場にある組長をして、無理矢理にその取消を言明させる等被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつた。(旧就業規則第八十九条第一号第二十六号第九十条第五号該当。)

(ロ)同年十二月十五日、原告宮崎は右造船仕上職場において、就業時間中その職場組合員全員を招集して不当な職場会議を開催し、その中止方を命じた職場長の業務命令に服せず、これを無視して会議を午前八時二十五分まで続行する等被告の業務を渋滞させかつその不利益を図るとともに職場の秩序を乱して、被告の業務遂行を妨害する所為があつた。(改正就業規則第八十九条第一号第十六号第九十条第四号第九号該当)

(4)  原告苅田の分。

(イ)昭和二十四年十一月二十日、原告苅田は就業時間中妄に自己職場である玉野製作所の外業組立職場を離れ、他職場である内業組立職場に赴き、燃料ポンプ仕上場の安全施設について種々文句を言う等越権専断で被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつた。(旧就業規則第八十九条第十三号第二十六号第九十条第五号該当。)

(ロ)同月二十一日、原告苅田は就業時間中妄に自己職場である右外業組立職場を離れ、他職場である起重機職場に赴き、電車運転手に対して「電車を停めぬか、お前も責任があるぞ」等の言辞を弄して作業を妨害した外、当時前後数回に亘つて右電車運転手に対し電車を停めることを強要する等越権専断で、被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつた。(旧就業規則第八十九条第十三号第二十六号第九十条第五号該当。)

(ハ)同月二十一日、原告苅田は玉野製作所附属病院のボイラーの修理を命ぜられていたにも拘らず、妄に同製作所入渠中の有馬山丸に赴き、同船で修理作業に従事していた従業員に対し、八千円以上の仕事をする必要はないと煽動して作業を妨害した他、当時前後数回に亘り右有馬山丸に赴き、同船で作業中の従業員に対して同様に働きかける等越権専断で、被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつた。(旧就業規則第八十九条第十三号第二十六号第九十条第五号該当。)

(ニ)同月二十八日、原告苅田は原告三枝同山本と共謀の上、終業後妄に玉野製作所の外業組立職場に止り、同所において翌二十九日の外国船エルゼメルスク号の海上予行運転を阻止するための職場会議を開催することを企て、その職場組合員招集のため就業時間中妄に同職場の職場組合員を煽動して歩く等被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつた。(旧就業規則第八十九条第七号第二十六号第九十条第五号該当)

(5)  原告池田同田添の分。

(イ)原告池田は日本共産党玉野造船細胞機関紙マストの発行人、原告田添は同機関紙の編集人であつたものであるが、同原告等は同細胞の政治活動として、昭和二十四年十一月十五日付第二十三号の同紙上に「会社が吾々の生活を無視し続ける限り、吾々は実力行使の裏付の下に安全衛生遵法闘争を押進めれば、会社の機能をマヒし最少の犠牲で最大の圧力をかけうるであろう。」との記事を掲載し当時右マストを叙上玉野製作所の従業員に頒布してこれを煽動する等被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつた。(旧就業規則第八十九条第二十六条第五号該当。)

(ロ)原告池田同田添は右玉野造船細胞の政治活動として、同年十一月四日、同月九日の二日間に亘り、いずれも同細胞名下の「進水は明日に迫つた。この好機に際し吾々の意気を示し、会社に圧力をかけねば悔を千載に残すであろう。」或は「断乎闘え、今日の全体投票は俺達の運命を決する重大な投票だ。」或は「有馬山丸をぶつとめろ、これが会社の急所だ」等とことさら玉野製作所の従業員に対する煽動的記事を掲載したビラを右従業員に頒布してこれを煽動する等被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつた。(旧就業規則第八十九条第二十六号第九十条第五号該当。)

三、原告池田同田添の抗弁に対する答弁。

被告は従業員の政治的信条のみによつて差別するつもりはない。尤も憲法第十四条及び労働基準法第三条にいう信条は宗教的信条であると解する。しかし右の政治的信条が同原告等のように言動として現われ、しかも被告の業務を破壊痲痺せしめんとする場合は、もはやそれは単なる信条だけに止らないのであつて、かくのごとき言動をなす者を企業内に止め置くことはできないのである。

四、原告等全員の抗弁に対する答弁。

(一) 不当労働行為の抗弁に対する答弁。

(1) 争議の事情経過について。

分会の前身たる全日本造船労働組合玉野支部が昭和二十四年五月十七日被告に対し当時の賃金八千円ベースを一万二千円ベースに賃上要求し、この賃上要求について分会と被告とが旧労働協約により、同年六月二十三日から同年八月二十日まで経営協議会を開いて交渉したが、意見の一致を見ず、その後分会が被告と同月二十二日から同年十二月二日まで二十三回に亘つて右賃上要求について団体交渉を行つたが、被告は会社の経理能力が許さないという理由でこれを拒否し、交渉は一歩も前進せず、この間分会は同年八月二十三日に至り分会規約を闘争規約に切換え通用して闘争態勢を確立し、同年九月二十一日から従来被告との間に締結されていた残業協定の締結を保留し、さらに同年十月一日被告に対し賃上要求の問題を労働委員会の調停に付すべき旨提案したが、被告は当時懸案となつていた労働協約締結を含めて一切の紛争を調停に付すべきことを主張して譲らなかつたので、労働委員会の調停も実現するに至らず、分会が同年十月三十一日闘争宣言を発するに至つたこと。同年十一月十八日ストを含む実力行使が分会の全体会議で可決され、翌十九日より各職場において労働安全衛生規則の遵法闘争を開始し、さらに同月二十九日よりエルゼメルスク号の海上予行運転の拒否等各職場の要点に対し部分ストを実施したこと。被告がその対抗手段としてエルゼメルスク号の予行運転拒否等作業拒否者に対して臨時休業を命ずるとともに関連職場に対しても工場閉鎖を行い、なお同月六、八、十一、十二日の四日間臨時休業を行つたこと。同月十三日の拡闘が民同派提案の中闘委員不信任案を可決し、該決定が同月十五日開催された分会の全体会議において否決されたこと。これよりさき被告が同月三日旧就業規則を改正し第九十一条の「表彰及び懲戒は賞罰委員会の議を経て社長がこれを行う。賞罰委員会に関する規定は別に定める。」との規定を削除し、同月十六日分会の組合員中原告宮崎を除く爾余の原告等八名の指導者を右改正後の就業規則により懲戒解雇したこと。同月二十一日結成大会が開催されて第二組合が成立したことは認めるがその余の事実は否認する。

本件争議は原告等も主張するように、昭和二十四年五月十七日から同年十二月二十三日まで七箇月以上に亘る長期のものであつて、その間分会は残業協定留保並に拒否、職場スト、安全衛生規則の遵法闘争等合法を仮装する悪質の斗争手段を採り、十二月初旬にはゼネストを決行する段階に到達したのであるが、被告はこれ等相続く争議行為のために甚大な打撃を蒙り、業務は全く痲痺するに至つたので、同月六、八、十一、十二日の四日間事態拾収のため臨時休業を行つた。これがため分会の企図したゼネストは遂に実現できなくなり、焦慮した分会幹部は同月十九日エルゼメルスク号の入渠作業拒否の指令を発し、暴力の行使を敢行した。かくて左翼的幹部の指導が真の意味における経済闘争を目的とするものでないことが、分会中の健全分子に漸くはつきりと認識せられ、分会は分裂し、同月二十一日第二組合が結成され、従業員六千三十二名の中五千七百八名が加入して、さしも苛烈を極めた闘争も遂に終止符をうたるるに至つたのである。

(2) 不当労働行為について。

叙上の争議において、原告等が所属していた職場が別表に示すとおりであること。同年末までに原告等を含む分会の指導者合計三十四名の全員が懲戒解雇されたことは認めるがその余の事実は否認する。分会の組合員等は旧就業規則第八十九条第七号により許可を得ないで終業後正当の理由なく工場に留ることは禁ぜられており、また当時分会と被告との間に締結されていた組合活動に関する協定により、組合活動は就業時間中は原則として許可がなければできないことに禁止されていたのに所定の許可を受けないばかりでなく、分会の指令によらない山猫争議を各職場に展開したのであるが、原告三枝同山本同尾高同中藤同三好同宮崎同苅田はいずれも右山猫争議の責任者に該当するものである。なお原告池田同田添は日本共産党玉野造船細胞機関紙マスト並に同細胞名下のビラによる同細胞の政治活動をもつて分会のため争議行為としてなした正当な組合活動である。仮に右各所為に同細胞に属する同原告等の政治活動たる一面があるとしても他面においては分会のため同原告等が争議行為としてなした組合活動たる性質をも具有するものであると主張するけれども、右所為はいずれも同細胞の構成員である同原告等がその機関紙またはビラを利用した所為であり、その記事内容にも破壊的な表現を使用している点等から見て、いずれも叙上の政治活動であることは明らかであり、また叙上の政治活動が同時に正当な組合活動であるというような道理はない。

(二) 改正無効の就業規則を適用したとの抗弁に対する答弁。

被告の旧就業規則第九十四条に「この規則を改正する必要を生じた場合は、労働組合との協議によつて行う。」と定められてあること。被告が昭和二十四年十二月三日分会との協議を経ないでこれが改正を行い、同規則第九十一条の「表彰及び懲戒は賞罰委員会の議を経て社長これを行う。賞罰委員会に関する規定は別に定める。」との規定を削除したことは認めるがその余の事実は否認する。この就業規則の改正については、分会が昭和二十四年十二月二十日、岡山地方裁判所にその効力停止の仮処分申請をなし、右事件は同年(ヨ)第九一号事件として同裁判所に繋属し、昭和二十五年四月十五日決定によつて却下せられ、ついで分会は広島高等裁判所岡山支部に抗告をなし、同年六月二日同裁判所で抗告棄却となつたものであるが、被告は協議を経ない就業規則の改正は無効でなく、改正自体は完全に効力を発生しているものであるとの右二つの決定の判示をそのまま援用する。

(三) 効力停止中の就業規則を適用したとの抗弁に対する答弁。

原告等の主張事実を否認する。

(四) 就業規則の情状酌量規定を適用しなかつたとの抗弁に対する答弁。

原告等の主張事実を否認する。

第三、証拠の提出援用認否。〈省略〉

理由

一、請求原因事実についての判断。

原告等が本訴の請求原因として主張する事実中、被告が玉野市玉に在る玉野製作所において、船舶及び舶用諸機関の新造並に修理等の事業を営む株式会社であること。原告等がいずれも被告に雇われ、右玉野製作所において被告の事業のため働いていた従業員であり、かつ全国造舶労働者をもつて組織せられている全日本造船労働組合の組合員中被告に雇われている者をもつて組織せられている全日本造船労働組合玉野分会の組合員であつたこと及び被告が被告の就業規則を適用し原告等にその反則があるという理由で、原告三枝同山本同尾高同中藤同三好同苅田同池田同田添の八名を昭和二十四年十二月十六日に、原告宮崎を同月二十四日にそれぞれ懲戒解雇したことはいずれも被告の認めるところである。しかしながら右懲戒解雇が違法無効の処分であるとの点については、被告の極力抗争するところであるので、以下これに関する当事者双方の主張について判断する。

二、懲戒解雇の正当事由についての判断。

被告が叙上懲戒解雇の正当事由の項で主張する事実中、被告の旧就業規則並に改正就業規則に、それぞれ被告主張のような懲戒規定の存することは原告等の認めるところである。原告等に被告が同項で主張するような就業規則違反の所為があるか否かについては、これに対する原告等の叙上答弁事実も考察してつぎのとおり判断する。

(1)  原告三枝同山本の分。

(イ)の事実中、昭和二十四年十一月二十八日、終業後外業組立職場において、職場組合員による職場会議が開催され、原告三枝がその議長となつたこと及び右職場会議において、原告山本が提出した「翌二十九日のエルゼメルスク号(第五四六番船)の海上予行運転を拒否するよう中闘に圧力をかける。」との動議を取上げ、これを可決せしめたことはいずれも同原告等の認めるところである。右争いない事実に、同原告等が成立を認める乙第二号証の一、二第三、五号証被告が成立を認める甲第二十一号証の一中証人田村連同号証の二中証人多賀武志及び同号証の三中証人佐藤正夫の各供述記載の一部証人中藤初男同甲斐長同小口嘉治の各証言原告三枝同山本の各供述の一部を綜合すると、右職場会議は、原告三枝同山本が原告苅田と意を通じて、共に終業後妄に同職場に止り、職場組合員を招集して開催したものであること。同職場会議において、原告三枝はその議長として、原告山本は叙上の動議を提出する等会議の指導推進に努めたこと及び右動議が可決されるや、原否三枝同山本は直ちに右職場組合員を引率して中闘本部に赴き、中闘委員会に対し翌二十九日実施予定のエルゼメルスク号の海上予行運転を中闘指令によつて拒否するよう強力な申入れをする等、被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図つたことが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(ロ)の事実中同月二十九日、中闘委員会が右エルゼメルスク号の海上予行運転拒否の中闘指令第三十六号を発令したこと。当日その発令後松尾外業課長が右外業組立職場に来場し、右指令に対する運転要員の去就を確認するため、職場組合員全員を集合せしめたこと及び中闘委員会より青井、井上両中闘委員を現場に派し、事態の収拾を図つたことはいずれも同原告等の認めるところである。右争いない事実に、証人小口嘉治同松尾正治同小泉磐夫の各証言原告三枝同山本の各供述の一部を綜合すると、当日就業時間中、松尾外業課長が叙上運転要員の去就確認のために集合させた職場組合員は百七、八十名位であつたこと。その際同課長は予定の運転要員四十名余について、各その氏名を呼上げ、予行運転のため乗船するか否かの去就を確めたが、全員より拒否され、さらに運転要員として原告三枝同苅田の両名を指名したところ、同原告等より拒否されたので、同課長は小口係長と共に、集合せる職場組合員に対し、乗船拒否者以外の者は直ちに作業に就くよう指示したがこれに応ずる者はなかつたこと。折柄同職場に来場した、小泉造機部長代理も、右職場組合員に対し、会社の許可しない集会であるから解散し就業するよう指示したが、原告三枝は同代理に強い反抗的言辞を弄し、原告山本はこれに罵詈雑言をあびせたこと。さらに同原告等はこれを取囲んでいた職場組合員中七、八十名位の先頭となつて、同職場の事務室に入つたが、同原告等は同所において、松尾外業課長に対し、乗船拒否者に他の仕事を与えるよう強要したこと。かくして同原告等は当日正午頃まで、前後三時間位に亘つて、叙上の集合せる職場組合員の中心となつてこれを指導推進し、その間これ等多数の職場組合員に対し、その職場を抛棄させる等被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図つたことが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(ハ)については、叙上(イ)(ロ)の事実に証人安藤次郎の証言によつて成立を認める乙第一号証証人安藤次郎同高戸三六同田中繁松の各証言を綜合すると、同原告等の右(イ)の所為は中闘に叙上の中闘指令第三十六号を発令させる結果となり、これがため被告はエルゼメルスク号の海上予行運転を中止しなければならなくなつて、その工程上多大の支障を来したこと。さらに同原告等の右(ロ)の所為と相俟つて、被告の対外信用をも失墜させ、これ等の犯則によつて被告に有形無形の重大な損害を与えたことが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(2)  原告尾高同中藤同三好の分。

(イ)の事実中、昭和二十四年十一月二十九日、造船仕上職場において、職場組合員による職場会議が開催され、原告尾高がその議長となつたこと及び右職場会議終了後、同職場に木庭職場長ついで河面係長が来場したことは被告の認めるところである。右争いない事実に、同原告等が成立を認める乙第二号証の一、二証人松村辰夫同大賀長太郎同木庭敏夫同河面良治の各証言、証人栗山正勝同長目静夫の各証言の一部、原告尾高同中藤同三好の各供述の一部を綜合すると、右職場会議は、同職場の闘争支部長たる原告尾高が、当日の就業時間前に職場組合員全員を同職場に招集して、エルゼメルスク号の海上予行運転拒否に関する中闘指令第三十六号の趣旨をこれに伝達した後、原告尾高同中藤同三好の三名が互に意を通じ、妄に就業時間内に亘つて開催したものであること。右職場会議の議長となつた原告尾高はそのへき頭「運転要員に指名された十二名は中闘指令によつて乗船を拒否した。よつて他の職場組合員も右十二名と行動を共にしようではないか。」との提案を行いこれを可決せしめたこと。その終了後、折柄午前八時二十分頃、木庭職場長が同職場に来場し、集合している職場組合員に対し、作業に就くよう注意するや、原告尾高は同職場長に対し「運転要員十二名には乗船拒否の中闘指令が出ているから、この十二名に対し他の仕事を与えて貰いたい。」との申入れをなし、同職場長が「中闘指令は運転要員に対する指令であるから、他の者は仕事に就くように。」と指示したのに対しても、原告尾高等は強い反抗的態度をもつて拒否し、ついで河面係長が来場し「運転要員十二名については指示はないから別に考える。他の者は仕事に就くように。」と重ねて指示したが、原告尾高同中藤等は強い反抗的態度をもつて拒否するとともに、同係長に対し「運転要員十二名に仕事を与えて貰いたい。若し吾々の言うことを聞かなければ、吾々は課長部長所長のところに押しかけて行くから、係長職場長は先頭に立つて行つてくれ。」と強硬な態度をもつてこれを申入れたこと。かくして原告尾高同中藤同三好の三名は、当日正午頃まで、前後四時間位に亘つて、叙上集合せる職場組合員の中心となり、これを指導推進し、その間多数の職場組合員に職場を抛棄させる等被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図つたことが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(ロ)については、右(イ)の事実に証人安藤次郎の証言によつて成立を認める乙第一号証、証人安藤次郎同高戸三六同田中繁松の各証言を綜合すると、原告尾高同中藤同三好の右(イ)の所為は、その犯則によつて叙上被告の業務を渋滞させかつ被告の対外信用の失墜をも招来させて、被告に有形無形の重大な損害を与えたことが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(3)  原告宮崎の分。

(イ)の事実中、昭和二十四年十一月二十九日、造船仕上職場において、職場組合員による職場会議の開催されたこと及び原告宮崎がその席上で組長に対して運転要員の指名の取消を求め、組長をしてその取消を言明させたことは同原告の認めるところである。右争いない事実に、同原告が成立を認める乙第二号証の一、二証人松村辰夫同大賀長太郎同木庭敏夫同河面良治の各証言証人栗山正勝同長目静夫の各証言の一部、原告尾高同中藤同三好同宮崎の各供述の一部を綜合すると、右職場会議は同職場の闘争支部長たる原告尾高が、当日の就業時間前に職場組合員全員を同職場に招集して、叙上のエルゼメルスク号の海上予行運転拒否に関する中闘指令第三十六号の趣旨を職場組合員等に伝達した後、原告中藤同三好等と互に意を通じて妄に就業時間内に亘つて開催したものであること。右職場会議の議長となつた原告尾高は、へき頭「運転要員に指名された十二名は中闘指令によつて乗船を拒否した。よつて他の職場組合員も右十二名と行動を共にしようではないか。」との提案を行いこれを可決せしめたこと。その終了後、折柄午前八時二十分頃、木場職場長が同職場に来場し、集合している職場組合員に対し、作業に就くよう注意するや、原告尾高は同職場長に対し「運転要員十二名には乗船拒否の中闘指令が出ているから、この十二名に対し他の仕事を与えて貰いたい。」との申入れをなし、同職場長が「中闘指令は運転要員に対する指令であるから、他の者は仕事に就くように。」と指示したのに対しても、原告尾高等は強い反抗的な態度をもつて拒否し、原告宮崎はその際同原告等に同調する態度をもつて、井戸組長に対し「運転要員の指名を取消せ。」と言つて取消を強要し、遂に同組長をしてその取消を言明させたこと。ついで河面係長が同職場に来場し、「運転要員十二名に対しては指示はないから別に考える。他の者は仕事に就くように。」と重ねて指示したのに対し、原告尾高同中藤等が強い反抗的な態度をもつて拒否するや、原告宮崎はこれに同調し、同係長に対し「組長は運転要員の指名を取消すと言つているではないか。」と暴言を吐く等よつてもつて被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつたことが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(ロ)の事実中、昭和二十四年十二月十五日原告宮崎が造船仕上職場において、職場組合員による職場会議を開催したことは同原告の認めるところである。右争いない事実に、証人木庭敏夫の証言原告宮崎の供述の一部を綜合すると、右職場会議は就業時間前から始め、就業時間が来ても解散せず、妄に就業時間内に亘つて続行したものであること。当日午前八時二十分頃、木庭職場長が同職場に来場し、右会場の台の上で演説をしていた原告宮崎に対し「就業時間中だから職場会議をやめるように。」と指示したが、同原告はこれに応せず、会議を続行する等被告の業務を渋滞させ、被告の不利益を図りかつ職場の秩序を乱して被告の業務遂行を妨害したことが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(4)  原告苅田の分。

(イ)については、証人福山雅美の証言によつて成立を認める乙第八号証証人福山雅美同越智秀雄同石原義夫の各証言を綜合すると昭和二十四年十一月二十日、原告苅田は就業時間中、妄に自己の職場である外業組立職場を離れ、他の職場である内業組立職場に赴き、燃料ポンプ仕上場の安全施設について、種々文句を言う等越権専断で被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつたことが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(ロ)については、証人福山雅美の証言によつて成立を認める乙第七号証証人岡進同福山雅美同越智秀雄同石原義夫の各証言を綜合すると、同月二十一日、原告苅田は、就業時間中妄に自己の職場である外業組立職場を離れ、他の職場である起重機職場に赴き、電車運転手に対し「電車を停めぬか、お前も責任があるぞ。」等の言辞を弄して作業を妨害した他、当時前後数回に亘つて、右電車運転手に対して、電車を停めることを申入れる等越権専断で、被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつたことが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(ハ)については、被告が成立を認める甲第二十一号証の一中、証人石田金吾同道上寿夫同田村連の各供述記載中の一部、証人瀬戸垣内明の証言、原告苅田の供述の一部を綜合すると、同月下旬頃原告苅田は玉野製作所附属病院のボイラーの修理を命ぜられていたにも拘らず、当時三回位に亘りいずれも就業時間中妄に同製作所に入渠していた有馬山丸に赴き、同船の修理作業に従事していた従業員に対し、電燈が暗いとか、通路が狭くて危険だ等文句を言い、或は八千円だけの仕事をせよと煽動する等越権専断で、被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつたことが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(ニ)については、原告苅田が成立を認める乙第二号証の一、二第三、五号証甲第二十一号証の一中の証人田村連同号証の二中の証人多賀武志及び同号証の三中の証人佐藤正夫の各供述記載の一部、証人中藤初男同甲斐長同小口嘉治の各証言、原告三枝同山本の各供述の一部を綜合すると、同月二十八日原告苅田は原告三枝同山本と互に意を通じ、終業後妄に自己職場である外業組立職場に止り、職場組合員を招集して職場会議を開催したこと。原告苅田は右職場会議開催のため、当日の就業時間中無断で同職場の職場組合員に対し、右職場会議開催の旨を伝達して歩いたこと。よつて開催された職場会議は原告三枝が議長となり、原告山本が提出した「翌二十九日のエルゼメルスク号の海上予行運転を拒否するよう中闘に圧力をかける。」との動議を可決せしめる等、主として同原告等においてこれが指導推進に努めたこと及び右動議が可決されるや、原告三枝同山本は直ちに集合せる職場組合員を引率して中闘本部に赴き、中闘委員会に対し、翌二十九日実施予定の外国船エルゼメルスク号の海上予行運転を中闘指令をもつて拒否するよう強力な申入れをする等、被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図る所為があつたことが認められこれを覆すに足る確証はない。

(5)  原告池田同田添の分。

(イ)の事実中、原告池田が曽て日本共産党玉野造船細胞機関紙マストの発行人であつたこと。昭和二十四年十一月十五日附第二十三号の同紙上に、被告が主張するように「会社が吾々の生活を無視し続ける限り、吾々は実力行使の裏付の下に、安全衛生遵法闘争を押進めれば、会社の機能をマヒし、最小の犠牲で最大の圧力をかけ得るであろう。」との記事が掲載されたことは被告の認めるところである。右争いない事実に、原告等が成立を認める乙第九号証第十六号証の一、二被告が成立を認める甲第二十四号証の一、二に、本件口頭弁論の全趣旨を綜合すると、当時原告池田同田添は共に日本共産党玉野造船細胞の構成員であり、同細胞はその機関紙としてマストを発行していたものであるが、原告池田はその発行人原告田添はその編集人であつたこと及び同原告等は同細胞の政治活動として、被告主張の昭和二十四年十一月十五日附第二十三号の同紙上に、被告主張のような記事を掲載して発行し、これを当時玉野製作所の従業員に頒布したことが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(ロ)については、玉野造船細胞名下のビラに、被告の主張するような「進水は明日に迫つた、この好機に対し吾々の意気を示し、会社に圧力をかけねば、悔を千載に残すであろう。」或は「断乎闘え、今日の全体投票は俺達の運命を決する重大な投票だ。」或は「有馬山丸をぶつとめろ、これが会社の急所だ。」等の記事が掲載されたことは被告の認めるところである。しかしながら原告池田同田添の両名が、そのような記事の掲載されたビラの作成者でありかつ同原告等がそのビラを同月四日同月九日の二日間に亘つて、玉野製作所の従業員に頒布したということについては、これを認めるに足る確証はない。従つて、被告主張の右(ロ)の所為については、爾余の争点について判断するまでもなく、同原告等に就業規則違反の事実を認め得ないところである。

しかして叙上認定した原告等の(1)乃至(5)の各所為は、それぞれ被告の主張する当該就業規則の懲戒規定に該当することが明らかであるが、該認定に反する趣旨の原告等の答弁事実についてはこれを該めるに足る確証はない。

三、原告池田同田添の抗弁についての判断。

原告池田同田添は、被告が同原告等に対し、懲戒解雇の正当事由の項で主張する(5)の(イ)(ロ)の事実は、それ自体日本共産党玉野造船細胞に属する同原告等の政治活動を理由とするものであるから同原告等に対する本件懲戒解雇は、その政治的信条の故をもつてその労働条件について不利益な取扱いをなすものであり、強行法たる労働基準法第三条に違反し、いずれも無効であると主張するけれども、被告が同原告等に対し懲戒解雇の正当事由の項で主張する(5)の(イ)(ロ)の事実は、日本共産党玉野造船細胞に属する同原告等の政治活動たる就業規則違反の所為、すなわち被告の業務を渋滞させかつ被告の不利益を図つた所為を理由とするものであることは、主張自体明らかなところであつて、同原告等の単なる政治的信条の故をもつてその労働条件について不利益な取扱いをなすものではないから、労働基準法第三条に牴触するものとはいい難く、右抗弁はいずれも理由がない。

四、原告等全員の抗弁中(一)不当労働行為の抗弁に対する判断。

(1)  争議の事情経過について。

原告等が本件争議の事情経過として主張する事実中、分会の前身たる全日本造船労働組合玉野支部が、昭和二十四年五月十七日、被告に対し当時の賃金八千円ベースを一万二千円ベースに賃上要求し、この賃上要求について分会と被告とが旧労働協約により、同年六月二十三日から同年八月二十日まで経営協議会を開いて交渉したが、意見の一致を見ず、その後分会が被告と同月二十二日から同年十二月二日まで二十三回に亘つて右賃上要求について団体交渉を行つたが、被告の経理能力が許さないという理由でこれを拒否し、交渉は一歩も前進せず、その間分会は同年八月二十三日に至つて分会規約を闘争規約に切換え通用して闘争態勢を確立し、同年九月二十一日から従来被告との間に締結されていた残業協定の締結を保留し、さらに同年十月一日被告に対し賃上要求の問題を労働委員会の調停に付すべき旨提案したが、被告は当時懸案となつていた労働協約の締結を含めて一切の紛争を調停に付すべきことを主張して譲らなかつたので、労働委員会の調停も実現するに至らず、分会が同年十月三十一日闘争宣言を発するに至つたこと。かくて分会は争議に突入し、翌十一月十八日ストを含む実力行使が分会の全体会議で可決され、翌十九日より各職場等において労働安全衛生規則の遵法闘争を開始し、さらに同月二十九日よりエルゼメルスク号の海上予行運転の拒否等各職場の要点に対し部分ストを実施したこと。被告はその対抗手段として、エルゼメルスク号の予行運転拒否等作業拒否者に対し臨時休業を命ずるとともに、関連職場に対しても工場閉鎖を行つたこと及び被告が同年十二月六、八、十一、十二日の四日間臨時休業を行つたことは被告の認めるところである。

右争いない事実に、被告が成立を認める甲第八号証の一乃至二十二第十一号証第十四号証の一乃至三第二十六号証第二十七号証の一乃至九、原告等が成立を認める乙第二十九号証、証人児玉定同立花重道同八重本健三同名倉順二同樋口清一同梶原克雄同杉本八代治同碇金和男同片山儉一同尾高瀞同小西岩男同高戸三六の各証言を綜合すると、被告は昭和二十四年十二月三日の第三十四回団体交渉を最後として、その後分会が殆んど連日に亘つて申入れた団体交渉を拒否し続けたこと。従来分会の執行部には民同系の指導者グループと共産系革同系の指導者グループがあつて両者が対立し、殊に民同系の指導者グループは、予て労働問題研究会を結成して、分会の叙上闘争方針に反対していたこと。その主張は要するに、闘争態勢を解いて、被告と残業協定を結び、被告から越年資金を獲得せよというのであつて、これは恰も被告の意向に副うもののごとくであつたこと。この民同系指導者グループ並にこれに同調する職制等の宣伝活動は、同月中旬頃には、分会の拡闘における大勢を支配するに至つたこと。なお分会の拡闘が同月十三日、民同派提案の中闘委員不信任案を可決し、該決定が同月十五日開催された分会の全体会議で否決されたことは被告の認めるところであるが、分会はこの全体会議の決定によつて、中闘委員の信任と既定方針による闘争の継続を決定したこと。なお被告が同月三日旧就業規則を改正し、第九十一条の「表彰及び懲戒は賞罰委員会の議を経て社長がこれを行う。賞罰委員会に関する規定は別に定める。」との規定を削除し、同月十六日分会の組合員中原告宮崎を除く爾余の原告等八名を懲戒解雇したことは被告の認めるところであるが、右原告等八名はいずれも分会の組合員中強硬分子として目され、活溌な組合活動をしていた分会の指導者であり、右解雇は同原告等に何等弁解の機会を与えることなく行われたものであること。当時民同派に属する職制上の組長が第二組合加盟の署名簿等を携え、各職場を廻り、上長職制の前で、職場組合員に対し、第二組合えの加入を慫慂したのに、これが放任せられていたこと。中闘における叙上民同系の指導者グループと共産系革同系の指導者グループの対立は、そのまま分会の多数組合員に反映し、これを両派に二分し、その数も略伯仲し、分会内部における対立抗争は、争が苛烈となつた争議の末期において殊に甚しかつたこと。被告が同月十九日、叙上エルゼメルスク号の入渠作業を実施するや、分会の中闘はこれを阻止せんがため、即日中闘指令をもつてこれが阻止を指令し、職場組合員約五百名を現場に動員してこれを阻止しようとして暴力の行使を敢行し、よつてその従業員に数名の負傷者を出したこと。同月二十日、被告社長はラジオをもつて分会の共産党幹部に対し、強硬態度をもつて臨む旨の放送をしたこと。なお同月二十一日第二組合は結成大会を開催して新たな三井造船労働組合を成立せしめたことは被告の認めるところであるが、これにより分会は分裂し、その主導権を失う結果となり、翌二十二日一切の闘争態勢を解いてここに争議が終結したこと及び争議中における叙上諸般の事情の推移変転は分会の組合員に対し、分会に残るか、第二組合に入るかの去就について動揺を与えていたのであるが、これを最後的に決定せしめ、分会の分裂を惹起せしめるに至つたのは、中闘指令による十二月十九日のエルゼメルスク号の入渠作業阻止の際に敢行せられた暴力の行使が、一般組合員をして中闘の指導する叙上争議の性格について、強い危惧の念を醸成せしめた結果によるものであることが認められ、これを覆すに足る確証はない。

(2)  不当労働行為について。

叙上の争議において、原告等が所属していた職場が別表に示すとおりであることは、被告の認めるところである。被告において成立を認める甲第三号証、証人八重本健三原告池田を除く爾余の原告等の各供述を綜合すると、その間原告等が分会の組合員として担当していた役割は、原告三枝は外業組立職場闘争支部長、原告山本は同支部統制班長、原告尾高は十二月四日頃まで仕上職場闘争支部長、原告中藤は同支部統制班長、原告三好は同支部補給班長、原告宮崎は十二月五日頃以降同支部支部長、原告苅田は拡闘委員、原告池田は中闘委員、原告田添は化工機組立職場闘争支部長であつたことが認められこれを覆すに足る確証はない。

被告が成立を認める甲第六、七号証第三十一乃至第三十三号証、証人児玉定同立花重道同八重本健三同名倉順二同樋口清一同梶原克雄同杉本八代治同碇金和男同尾高瀞の各証言原告池田を除く爾余の原告等の各供述を綜合すると、被告は叙上の争議において、分会に残つた中闘委員に対しては、不当な争議行為を指導推進し、被告に甚大な損害を与えたとしてこれを懲戒解雇しながら、第二組合に入つた中闘委員に対しては、右と同様な事案について出勤停止十日間というような軽い懲戒処分に止めた他第二組合に入つた組合員であれば、窃盜犯人でも情状を酌量して解雇をしなかつたのに、分会に残つた組合員に対しては、軽微な就業規則違反の所為でも、これを捉えて懲戒解雇する等差別的な取扱いをしたこと。なお被告が同年末までに原告等を含む分会の指導者三十四名の全員を懲戒解雇したことは被告の認めるところであるが、第二組合に入つた組合員には唯の一人も懲戒解雇されたものがなかつたこと。争議中分会に対しては八千円ベースを一銭たりとも上げ得ないとしていた被告が、争議終了後間もなく第二組合との間に実質上九千円ベース以上の給与体系をもつて協定を締結したことが認められ、これを覆するに足る確証はない。

そして(1)争議の事情経過についての項以降において認定した叙上諸般の事情を綜合考察すると、原告等に対する本件懲戒解雇は、一面において、被告が分会の弱体化を企図し、そのためにしたその運営に対する介入乃至同原告等が分会の活溌な組合活動をしたことの故をもつてした、不利益な取扱いであるとの非難を受けるに足るものがあり、これ等の事情を推認せしめるけれども、叙上懲戒解雇の正当事由についての判断の項で認めた同原告等の就業規則違反の所為については、それが中闘の指令によつた争議行為である等正当な組合活動と認めるに足る確証はない。寧ろ叙上就業規則違反の所為の事実認定に引用した各証拠に同原告等が成立を認める乙第二十九号証を綜合すると、原告三好同苅田同池田同田添を除く爾余の原告等の所為並に原告苅田の十一月二十八日の外業組立職場における職場会議に際しての所為は、同原告等が中闘の指令に基かず、分会における職場の指導者として、終業後或は就業時間中の職場において、職制の指示を無視或はこれに反抗し、恣意をもつて集合せる多数の職場組合員を指導或は煽動し、これに職場を抛棄させる等職場秩序を混乱せしめた不当な争議行為であること。原告苅田の爾余の所為はいずれも同原告が中闘の指令に基かず、就業時間中妄に他の職場や入渠中の船舶に赴き、従業員に対し種々の言辞を弄してその作業を妨害した不当な争議行為であることが認められ、また原告池田同田添の所為については、叙上懲戒解雇の正当事由についての判断の項で認めたように、同原告等はいずれも日本共産党玉野造船細胞の構成員であること、被告主張の同細胞の機関紙マストには、原告池田は発行人原告田添は編集人と表示されており、これに被告主張の記事が掲載されていること等から見て、反証のない限り、同原告等が分会の組合員であつたとしても、同細胞の政治活動としてなした不当な争議行為と認めるのが相当である。

原告三枝同山本は、叙上十一月二十八日の外業組立職場における職場会議について、終業後三十分以内職場に残留することは、従来慣行として被告が許容していたものであり、殊に争議中において、終業後三十分以内に行われた右職場会議の開催について、被告の許可を必要とする理由はないと主張するけれども、同原告等が規定の存在を認める旧就業規則第八十九条第七号によると、従業員は許可を得ないで終業後正当の理由なく工場に留ることを禁ぜられており、殊に同原告等のように、集合せる多数の職場組合員等を煽動して、これに職場を抛棄させる等、恣意をもつて職場秩序を混乱せしめた不当な争議行為が行われる場合でも、従来慣行として被告がその残留を許容していたと認めるに足る確証はない。

しからば、原告等に対する本件懲戒解雇が、一面において被告が分会の弱体化を企図してなした、その運営に対する介入乃至、同原告等が分会の活溌な組合活動をしたことの故をもつてなした、不利益な取扱いたる一面があつたとしても、法律は正当な組合活動を保護せんとするものであり、被告がかかる不当な争議行為を敢てした原告等に対し、その就業規則違反の所為を理由として、これに懲戒を加えることは当然であつて、その間不当労働行為の成立を認めるの余地はないものというべく、不当労働行為の抗弁はいずれも採用しない。

(二) 改正無効の就業規則を適用したとの抗弁に対する判断。

被告の旧就業規則第九十四条に「この規則を改正する必要を生じた場合は労働組合との協議によつて行う。」と定められてあること。被告が昭和二十四年十二月三日、分会との協議を経ないで、これが改正を行い、同規則第九十一条の「表彰及び懲戒は賞罰委員会の議を経て社長これを行う。賞罰委員会に関する規定は別に定める。」との規定を削除したことは被告の認めるところである。原告等は右就業規則の改正による同条の削除は同規則第九十四条に定める分会との協議を経ないで行われたものであるから同条の規定に違反し無効であり、被告が原告等に対してなした本件懲戒解雇は被告がかかる無効の就業規則により同規則第九十一条の定める賞罰委員会の議を経ないでなされたものであるからいずれも無効であると主張するけれども、本来就業規則の制定乃至改正は使用者が法令または当該事業場について適用される労働協約に反しない限り経営権の作用として一方的に行い得るものと解すべく、就業規則中にその改正の必要を生じた場合は使用者が労働組合との協議によつて行う旨を定めた場合においてもその規定は単に使用者が就業規則を改正するには労働組合と協議して行うべき義務を負担したに過ぎない趣旨であり、これが協議を経ないで改正が行われたとしてもその改正はかかる義務の違反たるに止り、その改正の効力を左右するものではないと解する。しかるに叙上就業規則の改正当時において、被告と分会との間に、労働協約の存しなかつたことは原告等の明らかに争わないところであり、またこれが改正の法令の違反その他改正を無効ならしむべき事由も見当らないのであるから、叙上就業規則の改正は、一応有効に行われたものと認むべく、従つてこれが改正の無効を前提とする原告等の抗弁は、爾余の争点についての判断を俟つまでもなく、いずれも失当たるを免れない。

(三) 効力停止中の就業規則を適用したとの抗弁に対する判断。

原告等は就業規則は平和時に妥当する規則で、争議中は自ら変容修正せられ、組合活動に対してはその効力が停止されるものと解する。しかるに原告等に対する本件懲戒解雇は、同原告等の叙上争議中の組合活動に対し、かかる効力停止中の就業規則を適用してなした不当な解雇であるから、いずれも無効であると主張するけれども、その主張は要するに、争議中使用者は正当な争議行為を行つた労働組合の組合員に対しては、その組合活動を理由に解雇その他の不利益な取扱いをすることを許さないという趣旨の主張と解すべきところ、争議中なるが故に就業規則が自ら変容修正せられ、組合活動に対してはその効力が停止されると解すべき何等の理由もない。就業規則に違反する不当な組合活動をした組合員がある場合において、使用者がその組合活動を理由に、就業規則を適用してこれに懲戒を加え得ることは当然である。従つて就業規則の効力停止を前提とする原告等の抗弁は爾余の争点についての判断を俟つまでもなく失当であつて、右抗弁はいずれも採用しない。

(四) 就業規則の情状酌量規定を適用しなかつたとの抗弁に対する判断。

原告等は、仮に原告等の所為が被告主張のように就業規則に照らし違法であるとしても、それは争議中已むなくなされた軽微な違反行為であるのに、被告がこれを理由に原告等に対し懲戒解雇という苛酷な処分をしたのは、就業規則の情状酌量規定を無視した処分であつて、いずれも無効であると主張するので右抗弁について審究するに、被告の旧就業規則第八十九条には「次の各号の一に該当する者は、審議の上譴責、減給又は職分剥奪に処する。但し犯則が軽微であるか、又は改悛の情が顕著な者は訓戒に止め、情状の重い者は懲戒解雇することがある。」と定められ、同規則第九十条には「次の各号の一に該当する者は審議の上懲戒解雇する。但し情状により職分剥奪又は減給に止めることがある」と定められ、改正就業規則第八十九条には「左の各号の一に該当する者は情状により譴責、減給、出勤停止又は職分剥奪に処する。但し犯則が軽微であるか又は改悛の情が顕著なる者は訓戒に止めることがある。」と定められ、同規則第九十条には「左の各号の一に該当する者は懲戒解雇に処する。但し情状により職分剥奪出勤停止又は減給に止めることがある。」と定められてあることは被告の自認するところである。

しかして、叙上のように、原告等の所為はいずれも旧就業規則第八十九条第九十条に該当し、唯原告宮崎の所為には改正就業規則当時の所為があるから、該所為は同規則第八十九条第九十条に該当するのであるが、使用者たる被告としては、これ等の犯則に対する懲戒処分において、叙上就業規則に段階的に定められている訓戒、譴責、減給、職分剥奪、出勤停止または解雇等の制裁をその情状に従い選択して採用し得ること勿論であるけれども、これが選択に際つては、事案に対する違法性その他諸般の情状を考慮した上で客観的に妥当性ある措置に出ることが必要であつて、使用者たる被告の恣意によつて、或は情状の軽い犯則に対して苛酷な懲戒を加えるというようなことは、就業規則を正当に適用しない懲戒権の濫用というべきであつて許されないものと解する。

よつて被告が叙上原告等の犯則に対してなした本件懲戒解雇の当否を検討するに、該解雇については、叙上のようにその措置に関し一面被告にも非難すべき諸多の事情が推認せらるるにもせよ、原告三枝同山本同尾高同中藤同宮崎については、同原告等の所為がいずれも集合せる多数の職場組合員を指導或は煽動し、これに職場を抛棄させる等職場秩序を混乱せしめたものであり、違法性も極めて重いこと等、叙上諸般の情状に照らし誠に已むを得ない措置であつたというべきである。しかしながら、原告三好同苅田同池田同田添の四名については、同原告等の所為がいずれも或は単独で行われ、或は他と共同してなされた場合においてもその活動は従属的であつたこと。なお原告池田同田添の所為についてはそれが政活活動としてなされたとはいえ、叙上のような争議中分会の組合員であつた同原告等が、玉野造船細胞の機関紙に安全衛生遵法闘争を強調した趣旨の記事を掲載し、これを玉野製作所の従業員に頒布したというに止り、いずれも違法性が比較的軽いこと。その他被告にも非難すべき叙上諸多の事情が推認せられること等叙上諸般の情状に鑑み、その犯則に対し被告が就業規則の定める譴責、減給、職分剥奪等の制裁を顧慮することなく、これ等四名に対し一挙に職場の極刑ともいうべき懲戒解雇の処分を採用したことは苛酷であり、就業規則を正当に適用しない懲戒権の濫用であつて、いずれも無効の処分というべきである。

五、終局の判断。

しからば他に特段の主張立証のない本件においては、現在被告と原告三好同苅田同池田同田添の四名との間にはいずれも従前の雇傭関係が存在しているものというべく、爾余の原告等との間には叙上就業規則の違反を理由とする懲戒解雇によりその雇傭関係はいずれも消滅しているものと認むべきである。従つて原告等が叙上懲戒解雇の無効確認を求める本訴請求中、原告三好同苅田同池田及び同田添の各請求についてはいずれも理由があるからこれを認容し、原告三枝同山本同尾高同中藤及び同宮崎の各請求についてはいずれも理由がないのでこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井上開了、菅納新太郎、辻川利正)

別表

原告の氏名

職場

役割

(1)

三枝利泰

造機部外業課組立職場

拡闘委員(平時の代議員以下同じ)

外業組立職場闘争支部長

山本春男

同上

拡闘委員

外業組立職場闘争支部統制班長

(2)

尾高武雄

造船部工作課仕上職場

拡闘委員(昭和二十四年十二月六日まで)

仕上職場闘争支部長(右同日まで)

中闘委員(右同日拡闘において選出せされ同月九日中闘指令第六五号により組合事務専従者を命ぜらる)

中藤一美

同上

仕上職場闘争支部統制班長

三好豊

同上

拡闘委員

仕上職場闘争支部補給班長

(3)

宮崎米男

造船部工作課仕上職場

仕上職場闘争支部統制班長(昭和二十四年十二月六日まで)

同支部長(同年十二月七日以降)

拡闘委員(同年十二月八日以降)

(4)

苅田耕治

造機部外業課組立工場

拡闘委員(昭和二十四年十二月六日まで)

中闘委員(同年十二月六日拡闘において選出せられ同月九日中闘指令第六五号により組合事務専従者を命ぜらる)

(5)

池田季男

造機部外業課外業機械職場

拡闘委員(昭和二十四年十二月六日まで)

中闘委員(右同日拡闘において選出せられ同月九日中闘指令第六五号により中闘において組合事務専従者を命ぜらる)

田添定秀

化工機部工作課化工機組立職場

拡闘委員

化工機組立職場闘争支部長

(備考)当時分会の採つた闘争組織は、中闘をもつて中央闘争本部とし、その下に職場闘争本部あり、本部長、統制班長、補給係長を置き、その下部に各職場毎の闘争支部あり、支部長、統制班長、補給班長の三役を置いた。

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